プラモデル寿司展示ケース製作編

はじめに

アクリル製品の製作依頼で、最も頻度が高いのが「装飾ケース」です。
商品の陳列や展示会等で用いる装飾ケースが想像しやすいと思いますが、せっかくのコレクションを雑多に並べるだけでなく、一つのインテリアとして飾りたいという個人の方からの要望も多くいただいております。

そこで今回は、巷で話題の「プラモデル寿司」を例にとり、プラモデル寿司をディスプレイするケースを想定し、ディスプレイ方法の着想から完成までの流れをリポートします。

まずは全力でプラモデルを製作しますよ

展示するもの無くしてアイデアは生まれない。
というわけで、まずは「プラモデル寿司」の製作にとりかかります。

今回使用するのはこちら。

寿司プラモかっぱ巻き

秋東精工株式会社さんの「寿司プラモかっぱ巻き」です。

早速開封すると、中はこんな感じ。

作り方は、包装紙の裏側に書いてありました。

寿司プラモかっぱ巻き説明

①、②、③の3ステップ。お好みの数で。お好きなサイズに。と、もの凄く自由。
一抹の不安が頭をよぎりますが、曲がりなりにもプラモデル同様、樹脂を扱う業者として相手にとって不足なし。
弊社の威信をかけて挑みます。

いざ、製作開始!

まずは米粒をランナーから切り離します。
弊社所有のニッパーを用いて米粒の切り離しを試みます。…あれ?ニッパーの刃が大きすぎて、米粒まで届きません。
試しに手でもぎってみると、意外と簡単に切り離す事ができました。良かった良かった。

…でも、何かが違うっ。
製造業といえば工具でしょ!という製造業魂に抗う事が出来ず、結果アートナイフで切り離す事にしました。
さらに、切り離した箇所を綺麗に削ぎ落としていきます。この辺りも製造業魂の見せ所です。

かっぱ巻き1個に対して使用する米粒の数量は273粒で、この作業に約2時間を要しました…。

握る?

次に、米粒を握ります。…?握ります?すごくリアルな米粒だけど、握ってもくっつきそうにないし…。
ちょっと何言ってるかよくわからないので、Google先生に登場いただきました。

同じシリーズの握り寿司の製作方法を解説しているページがありましたっ!
米粒をある程度積み重ねてから、接着剤をいっぺんに塗布し、そこに米粒をばらまく方法が効率良いそうです。ふむふむ。

今回は海苔巻きなので、実際の海苔巻きの作り方を参考に、接着剤を塗った海苔に米粒を散らして積み重ね、その面をならしてから具材のキュウリを置いて簀巻きにするという工法で進めました。

結果…それっぽくなりました。良かった良かった。

寿司プラモかっぱ巻き丸めてみた
製造業魂ふたたび…

…でも、何かが違うっ(2回目)。
実際のかっぱ巻きは包丁で切って完成させる為、キュウリや米粒はシャープに断ち切られた断面になります。今の状態では米粒がしっかりと形状を保っているためちょっとした違和感を覚えます。
かっぱ巻きの切断面を再現すべく、小口を弊社手持ちの工作機械でさらいました。
さらにキュウリの断面にも細かい表情を付ける為に接着剤を塗布し、表面が柔らかくなった処をカッターの刃先等で加工しました。

寿司プラモかっぱ巻き細工してみた

ここまでに3時間程掛かりましたでしょうか…
完成です。

ここでようやく、展示ケースの製作に取り掛かります!
しかし、かっぱ巻き作りに集中し過ぎで、ケースの形状アイデアを考えておりませんでした…
この製作でどっと疲れてしまいましたので、装飾ケースの草案は後日と致しましょう。

装飾ケースのアイデアまとめました

かっぱ巻きの完成から数日経過致しました。
その期間に、アイデアを固めました。そいつが…これだ‼

展示ケース素案

ドーム状の成形品を円形状の土台にビス止めする形状にし、内部にはかっぱ巻きを立体的に見せるせり上がり台も設けます。

着想したアイデアはこのようなマンガ絵で大まかなサイズ、形状をお示しいただければ結構です。

かっぱ巻きの寸法はこの通りです。(直径30㎜・長さ30㎜)

程よいプラドームの規格品(直径100㎜・高さ50㎜・2㎜厚、10㎜フランジ付き)がありましたので、ドーム部分にはこちらを用います。

これだけでも十分な雰囲気を纏いました。

続いて土台部分を検討します。土台は厚さがある方が高級感を得られる様に感じられますので、全体のバランスから鑑みて、8㎜厚のアクリル板材を使用します。

図面にするとこんな感じ

上記条件を踏まえて、図面を起こしました。

今回のかっぱ巻きケースは簡易な構造であるため、マンガ絵やイラストのみでも製作は可能です。複雑な形状や定期的に製作する予定がある場合は、以下のような図面を作成することが望ましいです。
なお、図面の作成を弊社にご依頼いただく場合は、別途費用が発生致します。

展示ケース図面

アイデアの段階では、土台部分の色は黒色となっていましたが、海苔の黒と重なって展示物が見づらくなるため、製作前にガラス色に差し替えました。

このように材料の特性を踏まえたアドバイスができるのも弊社の強みです。

ようやく図面が作成できたので、次は実際の加工に移ります。

材料を切り出します

弊社ではNC機を用いて、板材を任意の形状に切り抜く事が出来ます。
加工データを入力し、土台部分を製作します。

ご依頼の際は、加工データを手配していただくと、納期短縮に繋がります。なお、受け入れ可能な形式はイラストレーター、PDF、3DCAD等です。

ルーター加工

切り抜いた小口は加工刃で切削した痕が残っておりますので、ここからひと手間を加えて鏡面仕上げにします。

ここで鏡面仕上げについて補足します。
下の写真はそれぞれ、黒色の板材をNC機で切り抜いた材で左側が切り抜いた状態、右側は研磨機にて仕上げた状態です。

鏡面仕上げ見本


今回の製作では切り抜かれた面を直接バフ掛けして仕上げました。

バフ加工

御覧の通りの仕上がりとなりました。

ネジ穴と切り欠きを加工します

NC機で切り抜く際に、この円盤の上面に3か所の点を打ち込みました。
ここにネジ穴を設け、ドーム部分を固定できるようにします。
下穴を開け、タップでネジ山を掘り、ネジ穴の出来上がりです。

続いて、ドーム部分を加工し、土台にネジ止めするための切り欠きを設けます。
3か所のドーム部分の切り欠きと土台のネジ穴が対になることを確認します。

ネジ穴加工

バッチリです。
今回使用するネジは、樹脂製のキャップネジですが、ネジの形状や大きさを踏まえた上でネジ穴位置を設定する必要があります。

せり上がり台、その名はのり巻ライザー

次に、かっぱ巻きを立体的に見せるせり上がり台の製作です。
出来上がったかっぱ巻きを採寸し、収まりや見え方を踏まえて形状を決めます。

のり巻ライザー案

図面製作ソフトで適当な寸法で書き出し、ドーム内での収まりやバランスを検討して寸法を決めました。
手前側の出っ張りはかっぱ巻きを傾けて配置する際にせき止めるものです。

仕様が決定しました。これを基に、部材を製作します。

のり巻ライザー接着後

2㎜のアクリル板材に2㎜のアクリル角棒を接合します。接合には溶着液を用います。これは一般的にいう「接着剤」とは違い、アクリル材同士を溶かして結合させるものです。アクリル材の分子が融合した上で結合しているので、貼り合わせた面が分かり難く、綺麗な仕上がりです。アクリル材特有の素材の美麗さを生かした出来上がりです。

更にこれをヒーターで熱し、L字に曲げて形成します。

かっぱ巻きを置いてみました。宙に浮いたように見えますでしょうか。

のり巻ライザーに乗せてみた

我ながら上出来だと思います。

装飾ケース完成

最後に、これらの部材を組み合わせて、完成です。

いかがでしょうか。

回転寿司のレーンに乗っていそうな形状ではありますが…。
展示物を全方向から、視界を遮ることなく鑑賞出来る形状となっております。

カッチリした図面が無くとも、今回の様にマンガ絵をベースに仕様を決めた上で具体化出来ますので、何なりと御声掛けください。

今回の内容ですと、納期は7~10営業日、製品代は¥7,500-(税別)となります。
なお、ケース及び土台を四角形にて製作した場合(幅・奥行100㎜・高さ50㎜+土台の厚さ)は¥1,500-(税別)となります。

※いずれも2022年4月時点の金額です。

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